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手紙の行方(柳)

手紙の行方

 


バレンタインデーなんて、儀礼的なものでしかない。
日本ではそうなっているから、そうする。
ただそれだけの行為。
それはきっと彼女たちも同じだろうと思っていた。

2月14日、聖バレンタインデー。
今年も俺たちテニス部は、女子たちからチョコを貰った。
それは所謂、「本命」というやつで。
チョコと一緒に告白してくる女子も多かった。
まぁ大半がくれるだけなんだが。

今年も俺のデータ通り、精市がダントツに貰った量が多かった。
一昨年、昨年と精市が1位だったわけだから、今年もそうである確率は高いというわけだ。

俺もそこそこにチョコを貰い、部活では笹本と秋原の2人にも貰った。

そして、その次の日から笹本の様子が少しおかしい。
なんだかそわそわしていて落ち着かないのが目に見えてわかる。
一体どうしたというのだろうか?


何日たっても様子のおかしかった笹本だが、急に元に戻った。
でも時々俺の方をみては寂しそうな表情をするのは何故なんだ?


「柳」
「秋原か。どうした?」


部活終了と同時に秋原が俺の元に話しかけにきた。
秋原が面と向かって俺に話しかけてくるのは珍しい。
データが苦手みたいだ。
だが、苦手な俺にわざわざ自分から話しかけにきたということは、差し詰め笹本関連というところだろうか。

秋原はなにやら言いにくそうに視線をキョロキョロさせている。


「あのさ、バレンタインに私と透がチョコあげたでしょ?」
「ああ、貰ったな。部員に配っていたやつだろう?」
「うん。あれ、食べた?」
「…それがあの日はチョコを沢山貰ったのでな、他のチョコと混ざってしまってどれがお前たちから貰ったものかわからなくなってしまったんだ」


あの日、例年のことがあり紙袋を持参してはいたが、笹本たちから貰ったものも一緒にしてしまった。
そのせいで、どれが笹本たちから貰ったものかわからなくなってしまったのだ。

俺が正直にそう言うと、秋原は心底呆れたと大きなため息を零した。

なんだというんだ?


「あー、もう。最低」
「悪かったとは思うがそこまで言うことでもないだろう?」
「あーあ、後で一生後悔することになっても知らないわよ?」
「どういうことだ?」
「知りたい?」
「秋原?」
「本当に知りたいの?」


正直、そこまでして知りたい訳じゃない。
ただ、データを取る習慣からか、知らないことがあると知りたくなってしまうわけで。


「教えてもらえるか?」

 

俺は気づいたらそう言っていた。

 

秋原に教えて貰ったことは1つ。
笹本が俺にくれたチョコは茜色の包装紙で、黄色と銀色の細いリボンがついているやつだということだけだ。
それ以上を知りたいなら、笹本が俺にくれたチョコを探し出せということらしい。

何度聞いてもそれ以上は教えてくれない秋原に少し呆れながら帰宅した。


部屋にはまだ食べ切れていないチョコの山。
紙袋3袋ぶんのチョコの山から秋原に教えて貰った笹本のチョコを探す。

茜色の包装紙に黄色と銀色の細いリボン…。


「この袋ではなかったか」


1つ目の袋には特徴と合ったものは見つけられず2つ目の袋に手を伸ばした。
袋の中身をひっくり返して探す。


「あ」


見つけた。
茜色に黄色と銀色の細いリボン。
これだ。


だが、見つけたからといってこれが一体何だと言うのだろうか?
ゆっくりリボンを解いて包装紙をできるだけ破かないように剥がした。
出てきたのは普通の白い箱………とカード?
カードは二つ折りになっている至ってシンプルなもので。
開くと笹本の綺麗な字。

 

 

『好きです。部活頑張ってね。笹本』


…………さ、笹本が俺を…好き?

頭が混乱して思考が追い付かない。

待て、よく考えろ。
笹本がこういうことを本命にするとは考えがたい。
考えてもみろ、あの笹本だぞ?
あの笹本が本命に対して正直に好きだと告げるか?
しかも自分の口からでなくバレンタインカードで。
………俺のデータからすると、そういう行動に出る確率は43%とかなり低い。
だが、しかし………いや、でも。

もんもんと考えるが、いつまで経っても一向に思考が定まらない。
落ち着かない。
頭を抱えて目の前のカードを睨みつけるが、答えが浮き出てくるわけもなく。

だいたいあの笹本のことだ。
部員全員に配っていたのだし、「部活頑張って」の言葉からも、全員に同じカードを送っている確率の方がはるかに高い。
だがしかし、秋原がわざわざ俺にあんなことを言ってきたのも気になる。
なぜあんなことを言ってきたのか。
そこから導かれる答えは……笹本が俺を本当に好きだということで。
でも、好きの言葉の後になんでもないように部活を応援する言葉があることを考えると。
善意から、好意からの言葉かもしれない。
友達の好きという場合もある。

笹本の様子、秋原の言動。
ぐるぐると、だが、しかし、でもが頭を巡る。

ああ、もう、考えても何も分からない。
こんなこと初めてだ。
俺のデータが全く役に立たんとは……。

その日俺は眠れなかった。

 


「おはようさん」
「…ああ、仁王か。おはよう」
「なんじゃ、参謀。寝むそうじゃのぅ。寝不足か?」
「まぁ、そんなものだ」
「珍しいこともあるもんじゃな」
「…そうだな」


あのまま眠れなくて結局気づいたら朝日が昇っていた。
眩しく輝く朝日に愕然となった俺は、とりあえず朝練に出ようと家を出たのだが、思いの外早い時間に来たみたいだ。
いつもの1時間前に学校に着いてしまった。
当たり前だが誰もおらず、部室の鍵も精市が管理しているので、精市が来るまでは部室に入ることすらできない。
コート内のベンチに座ってぼぅっとしていると、仁王がやってきた。

…ずいぶん早いようだな。


「今日はずいぶん早くに来たようだが、どうしたんだ?」
「……プリッ」
「………みんなに黙って朝練前に練習か?」
「…………はぁ、参謀には敵わんのぅ。みんなには黙っててくれんか。俺は恥ずかしがり屋じゃからの」
「わかった。約束しよう」
「助かるナリ」


仁王はどこか分が悪そうに頭をかくと、どこかへ歩き出そうとした。
俺はそんな仁王を見て、ハッとした。

そうだ、仁王に聞けばいいのではないか?
笹本も秋原も部員には全員に配っていたのだから、笹本のカードが入っている確率は高い。
もし入っていないのだとしたら、その時は。


「仁王、少し聞きたいことがあるのだが」
「なんじゃ、参謀?言ってみんしゃい」
「…その、バレンタインチョコのことなんだが」
「チョコがどうしたんじゃ?数か?」
「いや、その。……笹本と秋原から貰ったチョコには何か入っていたか?」
「何か……ああ、あのカードのことかの」
「入っていたのか」
「ああ、笹本のには入っとったな。確か『これからも部活頑張って。笹本』じゃったかのぅ」
「!……そうか」
「何のデータじゃ?」
「…内緒だ」
「…参謀は恐いの」


恐い恐いと言いながら、どこかへ行ってしまった仁王を見ながら、俺は顔が赤くなるのを自覚した。
仁王のチョコにもカードは入っていたのに、俺のカードとは異なる内容。
そしてあの日から様子のおかしい笹本に、昨日の秋原のあの言動。

これらから導き出される答えは、笹本が俺を本気で好きだということ。

だが、それを考えると、笹本の行動はいささか不明な点がある。
数日はそわそわしていたが、それからぱたっと元に戻ったことだ。
笹本の性格からして、返事を期待しているとは思えない。
カードに返事について書いてないのも、それを裏付けている。
ただ、俺はどうすればいいんだ?
笹本に返事をすればいいのか?
それとも気にせずに普通に今まで通りにしていればいいのか?

俺は、笹本が好きだ。
それは薄々気づいていたことだ。
だが、笹本には弦一郎がいる。
だから、気付かないように、自覚しないようにと思っていたんだ。
なのにここにきて、笹本は俺が好きだという。
ならばここは男として答えを返すべきなのか?

何をすればいいのかなんて、今の俺には分からない。
………………今日、笹本を見て決めよう。
それからでも遅くはないだろうから。

 

 

 


 

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