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初めまして(赤也)

「あ!あの!」


響いた声は辺りに木霊し、私の耳にも十分に届いた。
聞き覚えのあるこの声に、一瞬懐かしいものを感じた。

後ろを向けば予想した姿とは少し異なった、髪の短い背の低い少年が立っていた。






初めまして







誰だろう?
何処かで見たことがあるような、ないような。
小首をかしげて見せると目の前の少年はあわあわしだした。(可愛いなぁ)


「あ、あの。いきなり引止めちゃってすみません!えっと、その…!」
「ああ、いいよ。別に急いでないし。何か用事でも?」
「あの、用事とかじゃないんっす。その、聞きたいことがあって」
「何?」
「前、桜坂テニススクールってところで、男の人と試合してませんでしたか!?」
「(桜坂テニススクールって透たちが通ってたとこだよね?)してたと思うけど、いつごろかな?」
「えっと、つい最近なんですけど」


最近と言うと覚えがあるのはゆっきと試合したあの日だけだ。


「先週の休みに試合をした覚えがあるけど……もしかして見てた?」
「はい!すっげー強くて、俺びっくりしちゃって!本当にすごかったっす!!」
「(あちゃー見られてたんだ)ありがとう」


本当は試合してるところを人に見られたくなかったから内心で凄く焦ったけども、身振り手振りで私の試合のすごさを表そうとしている少年が可愛くて可愛くて。
素直に嬉しいと感じる反面、少し恥ずかしさが込み上げてくる。
私は苦笑と一緒に言葉を繋いだ。
ここまで手放しに褒められるのは、経験上なかったことだから慣れてないんだよ!

きゃいきゃいと私の周りではしゃぐこの子がすごく可愛くて、どうしようもなく顔が、頬が緩んできてしまう。
あああああ!少年に変な眼で見られないようにしなきゃ!!
でも、可愛いよ――――!!!


「あ!俺!切原赤也って言います!あの!あなたの名前は!?」


…………あああ!!!
あ、赤也か!通りで見覚えがあるはずだよ!

内心、何でわからなかったんだとか、だから懐かしく感じたのかなどと葛藤している私。
赤也は目をキラキラさせて私を上目遣いに見上げたまま私の返事を待っている。
うわー、もう!可愛いな!
なんだこれ。お持ち帰りしたい。(待て)


「私は秋原伊織。よろしくね、切原くん」
「赤也って呼んでください!それで、俺も…伊織先輩って呼んでいいっすか!?」
「(!)もちろん!よろしくね、赤也」
「はいっす!伊織先輩!!」


うわぁぁぁぁあああ!!!
赤也可愛い!
先輩ってなんて言い響き!赤也可愛い!!
我慢できない!頭撫でたいいいいい!!!!


「!…あの、伊織先輩?」
「ん?」
「……あの」
「ああ、ごめん。…嫌だったかな?」
「いや!そんなことないんすけど」


恥ずかしいですって頬を赤く染めて視線外して言われてしまったよ。
可愛い!!!!
頭撫でただけでこんなになるなんて!純だね!
いやー赤也は純だったのか。いい情報を得た。
私は赤也の頭を撫で撫でしながら、恥ずかしがってる赤也の顔を堪能しました。
いやはや、可愛いですなー。
こんな弟が欲しいもんです。
お父さん、赤也を養子にしてくれないだろうか。(…無理か)

私が一向に頭から手を放さないから、赤也は動くに動けないみたいでそわそわしてる。
可愛い。小動物みたい。
私さっきから可愛いしか言ってない。
でもまだまだ言う。赤也可愛い。


「あの、伊織先輩」
「何?赤也」
「その………手」
「ふふ、ごめん。赤也があんまり可愛いから、つい」
「…俺、可愛くないっす」
「ごめんごめん。拗ねないで」
「拗ねてないっす!」


ぷりぷりと効果音がつくように怒ってみせる赤也が、やはり可愛く見える。
どうしよう。かつてないほどの可愛さなんですけど!


「あー!もー!赤也可愛い――!!」
「おわっ!ちょ、伊織先輩!!」


私は我慢しきれなくってがばっと赤也に抱きついた。
赤也はやはり恥ずかしいのか抵抗してくるものの、嫌がってはいないのか抵抗に真剣さが足りない。
私の腕なんか簡単に外せるだろうに。
顔を真っ赤にしている赤也を思い浮かべて私はまた顔が緩むのを止められないのだった。







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