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イオリはすごい。
イオリは強い。
イオリは俺の中で絶対なものだ。
俺の初恋の人
俺は小さい頃からアメリカに住んでた。
2歳くらいのころに親父がいきなり「引っ越すぞ!」と言って少し離れた場所に引っ越した。
そこにはすでに2家族が住んでいて、俺達はその隣に引っ越した。
なんでも親父の学生時代の知り合いが隣どおしで住んでいるというのを聞いて、自分達もと思っての引っ越しだったらしい。
はた迷惑なやつだと思ったけど、今はものすごく感謝してるんだ。
だってイオリに逢えたのだから。
俺のお隣には秋原家、その秋原家を挟んで向こう側に笹本家が住んでいた。
秋原家も笹本家もとてもお金持ちらしくて、でもそれを鼻にかけるようなことはしない人たちだからすぐに好きになった。
そしてその両家には俺より2歳年上の女の子が1人ずついた。
秋原家にはイオリ、笹本家にはトオル。
2人とも2歳しか違わない筈なのに、なんだかすごく大人びて見えた。
俺のことすごく可愛がってくれて、誕生日に両親以外にプレゼントをもらったのも2人が初めてだったから本当に嬉しかったんだ。
俺たちが引っ越してきてすぐ、2人が小学校に入学する少し前。
トオルが日本に引っ越した。
俺はまだイオリとトオルと出会ってそんなに経っていなかったから、寂しくはなかった。
でもイオリは生まれた時から一緒にいたんだって聞いた。
だからなのか、やっぱり寂しそうにしてた。
でも2、3日経つと普段のイオリに戻ったから、ホッとしたんだ。
でも違ってた。
イオリは寂しいのを笑顔の下に隠してた。
そんなイオリを見ていたくなくて、寂しそうにしてたイオリをテニスに誘った。
少し前から親父が教えてくれ出したテニス。
すごく楽しいから、きっとイオリも笑ってくれる。
寂しくないって言ってくれるかもしれない!
テニスを始めて、イオリはすごい速さで上手くなっていった。
俺なんて全然太刀打ちできないし、親父もすごく楽しそうにイオリにテニスを教えてた。
イオリもテニスをしてるときは笑顔だったから、よかったって思った。
イオリが笑ってくれてる。
それだけで俺はよかった。
イオリは絶対だったから。
俺の絶対だったから。
「…っ………」
トオルがいなくなってから、よくイオリと一緒にいた。
俺の前ではちゃんと笑ってる。
作った笑顔じゃなくてちゃんと笑ってる。
でも、たまに遠い眼をしてたのも知ってる。
ねぇイオリ。どこを見てるの?
イオリの部屋の扉の前で、ドアをノックしようとしてあげた手が止まった。
中から声を押し殺したような音が聞こえた。
イオリの部屋だからイオリが中にいるのだろう。
笠松がそう言ってたからきっとそう。
なら、この音はイオリが出している音?
この音は、イオリが泣いている音?
俺は居ても経ってもいられなくなって静かに中に入った。
「イオリ?」
「っリョマ!」
「…泣いてたの?」
「な、……泣いてないよ」
確かに泣いてはいなかった。
でも目に涙が溜まっていて、今にも泣き出しそうな顔。
何でそんな顔して笑うの?
俺にだってわかるよ!いつもイオリを見てたもん!
今のイオリの笑顔が作ってるかそうでないかなんてすぐにわかるんだから!
「俺じゃダメ?」
「リョマ?」
「俺じゃトオルの代わりにはなれない?」
「っ!」
「ねぇ、イオリ。俺がそばにいるよ?」
「違う、違うの。それもあるけど、そうじゃなくて」
「…俺には話せない?」
「………わかんない。でも、なんていうか。…私は本当に、臆病者だから。いろんなこと考えちゃう」
「…イオリ?」
「…ね、リョーマ。会いたいんだ。私、あの人たちに会いたい」
会いたい。
小さくつぶやいた声は、イオリをぎゅっと抱きしめてる俺にも聞こえた。
でも、イオリが誰に会いたがっているのかわからない。
トオルじゃない誰かに会いたがっているイオリ。
「その人にはもう会えないの?」
「もう、会えない」
「どうしても?」
「どうやっても」
「会いたいのに?」
「そう。会いたいのに、もう会えない。………さよならも言えなかった」
イオリの眼から小さな滴が零れた。
静かに頬を伝うそれは、どこか綺麗で、儚い。
イオリがどこかへ行ってしまいそう。
「イオリ、俺の傍に居て」
「リョーマ?」
「俺の傍にいるって約束して」
「どうしたの、急に」
「…イオリ、いなくならないよね」
「…」
「どっか行ったりしないよね」
「リョーマ」
「行っちゃやだ」
俺の傍にいるって言ってよ。
イオリがいなきゃ俺やだよ。
イオリが好きだ。
大好きなんだ。
イオリは俺の絶対で、必要なもので。
でも今のイオリはどっかに行っちゃいそう。
ぎゅってしてる手を放したらどこかへ飛んで行っちゃいそう。
やだよ。
「俺、イオリが好きだよ」
「リョーマ?」
「だから、泣かないで」
「っ…リョーマぁ……そ、そんなこと言ったら……余計に泣けちゃうじゃんかぁ…」
「イオリ」
「リョーマのバカァ……ふぅっ……ぅぁぁ…」
その日はずっとイオリを抱きしめてた。
イオリはそのまま寝ちゃうまでずっと泣いてて、俺とイオリはぎゅってしながら床で眠った。
抱きしめた伊織は俺より背も高くて、年も2つ上なのに、なんだか小さく感じた。
守らなきゃって思った。
イオリは俺の絶対で、守るべき人で。
大好きで大好きで大好きな女の子。
大事な幼馴染。
一番の強敵はトオルだろうけど、俺は負けないよ。
覚悟してよね、イオリ。
ま、今の目標はテニスでイオリを倒すこととイオリの身長を抜かすことだけど!
完
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