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ある年の11月の月末に、2つの産声が産婦人科に響き渡った。
第7話
私が初めて目にしたものは、近づきすぎだろってくらいドアップな、こちらの世界での父親(らしき人物)の顔だった。
「目!開いた!開いた!!裕子!!」
「はいはい、そんなに大声出さなくても聞こえてるわ」
父は興奮してるのか、単語を大声で母に向かって叫んでる。
それをうるさそうに、でも少し嬉しそうに、呆れた顔して諌める母。
…………2人とも、顔が綺麗系。
なんていうか、綺麗というか、かっこいいというか、本当にこの人たちが私の両親?ってくらいに綺麗系。
……はっ!じゃあ、こっちの世界では私も綺麗系!?
それはちょっと、いやかなりおいしい!
私は嬉しくてニヤニヤしてしまう顔を押さえつけられない。
その顔を見た父は、「裕子!伊織が笑った!!」と、また叫んだ。
あ、こっちの世界でも、名前は伊織なんだ。
そんなことに少し嬉しくなった。
だって20年も愛用していた名前だもん。
やっぱり気に入ってたし、私があの世界にいた証拠でもある。
感慨深いなぁ、と1人心の中で思ってみる。
「いやー、伊織はいい子だな。さすが俺たちの子だ!」
「まったく、親馬鹿ねぇ」
「伊織のためなら、親馬鹿だろうと何だろうとどんとこい!」
「本当に困った人ね」
父は胸を張って1人親馬鹿を披露し始めた。
母はそんな父を愛おしげに見やって、私に向って手を差し伸べた。
「伊織、おいで」
「あー(うん)」
私はまだ声がうまく出せない。
当たり前だ。
どうやら私は数日前に生まれたばかりの、生後何日の赤ん坊だったのだから。
トリップはトリップでも、転生系だったんだね。
そうだよね、命が生まれるっつったら、そりゃ赤ん坊からやり直しだわな。
今頃透も生まれただろうか、と少し心配になってきた。
よく考えれば、この広い世界で透を探し出すのは不可能に近い。
むしろ生涯を通さなければ、探し出せないだろう。
あー、どうすんだ。
私のこの懸念はすぐに不要のものとなった。
「そういえば、晃んとこも昨日赤ちゃんが生まれたそうだ」
「あら、生まれたの!男の子かしら、女の子かしら?」
「女の子だって。たしか、透ちゃんと言ったかな」
「透ちゃん?可愛い名前ね」
………透!?
まさかこんな近くで生まれていようとは、思いもしなかったよ。
これも神の配慮なんだろうか?
とりあえず、心の中でありがとうと呟いておいた。
「晃も安心してたよ、やっと生まれたーってさ」
「あらあら、晃さんともあろう人が随分と弱気だったのね」
「そりゃ、そうだろうよ。初めての出産だしな」
俺もそうだったし。
父は嬉しそうに、でも恥ずかしそうに呟いた。
そんな父を見た母も、嬉しそうにほほ笑んだ。
ああ、何かいいな。
この2人好きだな。
この人たちが、私の新しい両親。
これからよろしく、なんて思いながら、私は笑って両親を見ていた。
両親もそんな私に気づいたのか、私が笑っているのを見て、優しい笑顔を向けてくれた。
言葉にできないのがもどかしいけど、きっと言葉が話せるようになっても言わないだろうから、今言っておこうか。
「ああー、あーうー、だー(私を生んでくれてありがとう)」
「ん?なんだ、伊織?だっこか?」
「ふふ、ありがとうって言ってるんじゃないかしら?」
「え?ありがとう?」
「だー!(母すげー!)」
今日知ったこと。
透が案外近くにいること。
母がすげーということ。
私の両親は、温かな人たちだということ。
私はこの世界で生きていくということ。
続
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