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第6話
私たちが昨日乗っていたバスは新潟、東京区間を高速道路を使用して走っていた。
曰く、学校提供のバスだから、比較的安価で東京まで行ける代わりに、夜間走行だった。
あのあとすぐに寝入ってしまった私たちには分らなかったが、昨日の高速バス区間では雪が降っていたらしい。
順調に進んでいたバスは、パーキングエリアを経て、東京までの道のりを走っていた。
途中雨が雪に変わり、それでもバスはいつものことと走っていた。
みんな寝静まっている。
運転手以外に誰一人として起きている者はいない。
みんな夢の中。
そして、夢を見るままに、死んでいった。
簡単な交通事故だったという。
ただ雪に足を取られたバスが横転して、バリケードを突き破り、下の道路まで落ちてしまっただけのこと。
どこにでもありそうな交通事故だった。
雪でスリップして、事故を起こした。
誰にも咎はない。
誰にも罪などない。
あるとしたらそれは、それを普通だととらえてしまう、私たちにある。
それだけだ。
みんな即死だった。
ただ、私だけが、即死に至らず意識が少しだけ残ってしまったらしい。
そこで、ミカエルがわざわざ私を迎えに来たのだという。
「何であの時、私にはみんなが見えなかったの?」
「君は死にかけていたから、現世の出来事が見えないようになっていたんだよ」
「どういうこと?」
「人はね、死ぬと現世での出来事は見えないようになっているんだ。できるだけ未練を残さないようにね」
たまに念を残しすぎて、現世にとどまってしまう命もいるから。
それの予防策であるのだと、ミカエルが教えてくれた。
「それで?私たちがここにいる理由は?」
「今話すよ」
この世界に生きるすべての生き物には、寿命というものがあるという。
それは事故死であっても、病気であっても、どんな死であっても、すべてが寿命で、決められていることだ。
だが、極稀に例外が現れる。
「君たちだよ」
「…私たち」
「そう、君たちの寿命はもっと後にくるものであるはずだった」
どんな死であろうとも、すべては寿命で、神によって決められている、曰く定めなのだという。
その定めにのっとって、生き物は死に、生まれていくのだと。
命は平等でなくてはならない。
均等がとれていなければならない。
だから、命は寿命という形で管理されるのだ。
例外とはその均等に管理されたものからはみ出してしまった者のことだという。
今回の例で言うと、私たち2人のことだ。
私たちは今回、遅刻をしてしまい、バスに乗る予定はなかった。
バスの乗車客は全員死亡予定であったから、寿命ではなかった私たちはそのバスに乗ることはなかったのだと。
だが私たちはそのバスに乗った。
そして、事故は起きた。
もちろん全員死ぬ予定だったバスだ。
例外はない。
みんなその定めにのっとって、死んだ。
死ぬはずでない2人の命も一緒に。
「君たちには悪いことをした。何がどう歪んだのか、私にはわからないが、人間はたまに予想外のことをしてくれるから、きっと今回もその類だったのだろう」
「そりゃ、仕方ないとしか言いようがないね」
「…まぁそうだよね。全員死ぬ予定だったなら、それに乗っちゃった私たちにも責任があるってもんだよね」
「だねー」
「ねー」
死んでしまったものは仕様がない。
それよりも、私たちはこれからどうすればいいのかということが、先決だ。
「で、私たちってこれからどうすればいいの?」
「そうだそうだー!どうすればいいんだー?」
「…元の世界にはいられない。君たちのいた世界にはもう新たな命が君たちの分も送り出されてしまっている」
「えー!」
「じゃあ、どうすんのさ!?」
「心配はいらない。君たちの代わりに君たちの世界に行った者たちが行くはずだった世界へ、君たちを招こう」
いまいちよくわからない言い回しだ。
私と透は首をかしげつつ、神が言ったことを頭の中で反芻する。
「?」
「…つまり、余分な2つの命が行くはずだった、私たちの世界とは違う世界へ行けってこと?」
「掻い摘んで言うと、そうだね」
「「………トリップか!」」
思わず口をついて出た言葉が透と被った。
仕様がないよね、腐女子だもん。
私と透は顔を見合せて笑い合う。
「トリップ?」
「あ、いや、気にしないで!」
「うん!気にしなくていいよ!」
「……そうか、じゃあ君たちを新たな世界へと導こう」
「あ!ちょい待ち!」
「なんだい?」
まだ何かあっただろうかと、神は小首を傾げて聞いてきた。
「私たちの記憶って消えちゃう?」
これは重要な質問だった。
消さないでいられるなら消さないでほしい。
私と同じ世界に生きたという透の存在を、消さないでほしかった。
私の世界は本当にあったのだという証を消されたくないと思ってしまった。
「こちらの監督不行き届きだったし、君たちの記憶を消さないようにもできるが」
「私、消さないでほしい!」
「あ、私も!」
「新しい世界で一人とか寂しいじゃんね!」
「うん!伊織と一緒なら頑張れるし!」
「ね!」
「ねー!」
私たちはお互いを見て笑いながら首をかしげあった。
やっぱり覚えてないよりは覚えている方が、なにかと都合がいい。
それに忘れてしまうのは、さみしい。
その気持ちすら忘れてしまう対象になるのだとしても。
私たちには、ちゃんと世界があったのだということを、覚えたまま新しい命を生きたいと思った。
「では、もう思い残すことはないな?―――世界への扉開かれん。この者たちに新たなる命を授けよう」
目の前が光って、目を開けていられなかった。
思わず私は目を閉じた。
だんだん、意識が……とお………く、なって………………――――
続
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