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私は今久しぶりに日本の土を踏みしめている。
透が日本に行ってから7年。
月日が経つのは本当に早かった。
第19話
私が両親に日本の中学校に通いたいと言ったのは去年の暮れだった。
小学校ももうすぐ卒業という年の暮れ、私は両親に告げた。
「お父さん、お母さん。話があるの」
「何だい?伊織」
「どうしたの?」
「あのね、私……日本の中学校に通いたい」
「……」
「……」
唐突な話題。
それでも両親は私の話を真剣に黙って聞いてくれた。
日本の中学に通いたいこと、透の通う中学に行きたいこと、両親のもとを離れた場所で暮らしたいこと。
私が話し終わるのを両親はただ待ってくれた。
私が話し終えて一息つくと父は私に一言告げた。
「伊織のやりたいようにやりなさい」
それは突き放しているかのように聞こえる言葉。
でも違う。
私には判る。
本当に私を信じて、そして理解してくれているから。
だから、私は。
「ありがとう」
その一言だけを口にした。
両親(と笠松)は私を見て優しく微笑んでくれた。
さて、日本で暮らすにあたって両親は私に規則を設けた。
一つ、笹本家と一緒に暮らすこと。
二つ、勝手に一人で出歩かないこと。
三つ、月に一回は連絡を入れること。
四つ、半年に一回はアメリカまで帰ってくること。
この四つだった。
もちろん私はそのつもりだったし、それに異論はない。
両親はすぐに笹本家に電話して、私を預かることを了承してくれた。
透も私が日本の中学に通うという事はわかっていたようで、驚きもせずに「やっぱり」とだけ言って笑った。
そして、父は何を思ったのか携帯を買ってきてくれたのだ。
曰く、なにかあってもこれがあれば大丈夫!らしい。(きっとGPS機能でもついているのだろうと予測)
パソコンもあるのに、そんなに使用しないと思うけれど、まぁいいか。
黒地の外装にオレンジの内装。(可愛いv)
そして昨日。
アメリカの小学校も卒業してすぐ、私は日本行きの飛行機に乗って単身東京の羽田空港まで来ていた。
両親は入学式には必ず行く、と言って泣く泣く私を旅立たせた。
もちろん泣いたのは父だけだが。
飛行機から降りて荷物引き渡し所で少し休憩しつつ、外の景色を眺めた私の第一声は「おお、日本人がいる」だった。
久しぶりの、変な感覚。
周りがみんな日本人だ。
飛行機に乗っている時も、もちろん向こうにいた時も、周りはみんなアメリカ人だったり、違う国籍の人だったりした。
しかも、日本人なんてめったに見かけないからなんだか新鮮だ。
ゴウン、という音をたててベルトコンベアーが動き出した。
みんながベルトコンベアーの周りに一斉に集まる。
私もそれにならってすぐに近くに寄って行った。
私の荷物は比較的最初の方で見つかったので、それを持ってゲートをくぐった。
ガヤガヤと騒がしい。
でもすべて日本語だ。
ああ、日本だ。
ようやく私は実感したのだった。
「晃さんたち、まだ来てないのかな?」
私はキョロキョロとあたりを見回して目的の人物を探す。
だが、その人物は見つからず、見たこともない顔顔顔。
どうすればいいんだと途方に暮れてしまう。
前に来たときはすでに透が待機してたしなぁ。
私はため息を零し、携帯を取り出して落としていた電源を入れた。
着信履歴は入っていない。
と、携帯がいきなり音をたてて震えだした。
この音は着信を示すものだ。
私は慌てて携帯を開き、着信相手を見ると、そこには先ほどまで探していた人物の名前が入っていた。
ピッ
「はい、伊織です」
「ああ、伊織ちゃん?晃だよ、透のお父さんです」
「はい、ご無沙汰しています」
「いやいや。それよりも、ごめんね。道が渋滞していてもう少し遅れそうなんだ」
「あ、そうだったんですか。それなら空港で少し時間をつぶしていますね」
「そうしてもらえるかい?出来るだけ急いで迎えに行くからね!」
「こっちは大丈夫ですので、安全運転でお願いしますね」
「あはは、了解です!それじゃあ、動き出したから切るね。何かあったら連絡を入れるんだよ!」
「はい、それじゃあまた後で」
携帯から電子音が聞こえたところで携帯を切った。
さて、みんなが来るまで何をしていようか。
食事はこの後レストランへ行く予定だし、お土産は向こうで買った。
なら。
私は空港のカフェへと歩き出した。
カフェで何か飲みながら本を読もう。
そしてゆっくり待てばいい。
そう思いながら、落ち着いた雰囲気のあるカフェへと向かい、アイスティーを注文して手荷物に入っていた読みかけの本を取り出した。
パラ パラ
どれくらい時間がたったろうか。
そう思ったとき、携帯が着信を教えてくれた。
ピッ
「はい、伊織です」
「ああ、伊織ちゃん!今空港に着いたよ。どこにいるんだい?」
「今は、えーっと……空港内のカフェにいます。どこに向かえばいいですか?」
「そうだね、正面玄関はわかるかい?」
「あ、はい。分かります。そこへ向かえばいいんですか?」
「うん。もし分からなくなったら連絡をしてね!」
「はい。じゃあ、そちらへ向かいますね」
「うん、じゃあね」
私は本に栞をはさんで会計をし、店を出た。
正面玄関に迎えに来ているだろう、笹本家の人たちの元へ。
やっと物語が動き出した。
続
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