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透の音のない悲鳴が聞こえた気がして、私は足早にリビングへと向かった。
リビングに入って私が見たのは、透の背中と両親と透の両親と、小さい子供を連れた南次郎さんと奥さんだった。
第11話
私は混乱した。
私からは透の背中しか見えないが、透は何かに困惑している。
戸惑ってる。
でも、何に?
私は透の隣に立って、透の目線の先を見る。
目線の先には、南次郎さんに連れられた小さな子ども。
男の子だろう、大きな猫のような釣り目がリビングに入ってきた私と透を見つめている。
顔の整った綺麗な、どこか大人びて見える男の子。
でも少し、生意気そうな表情が年相応に見えた。
男の子と目が合う。
あれ?
私この子を知ってる。
でも、会ったわけじゃない。
ただ私が一方的に知っているだけ。
それも、今のこの子じゃなくて、もう少し年をとった少年になったこの子を。
君は誰?
「お、伊織も降りてきたな!」
父は嬉しそうに話しながらおいでおいでと手招きをする。
透は幾分か落ち着いたのだろう、素直にそばまで歩いて行った。
なんだか嬉しそうにしているのは、何で?
透の顔が少しわくわくしているような気がする。
なんだ?
「伊織、透ちゃん。さっき話しただろう?南次郎先輩の家族だよ」
「初めまして。えっとあなたが伊織ちゃんで、こっちが透ちゃんかしら?」
「あ、はい。秋原伊織です」
「笹本透です」
「私は越前倫子。この子は越前リョーマ、2歳よ」
「…」
「ほら、リョーマ。黙ってないでご挨拶!」
「……えちぜ、リョマ。2さい」
「(な、何だこの可愛い生き物!)あ、私は伊織!5歳だよ!」
「(伊織が動揺してる!)私は透。私も5歳だよ」
「イオリとトオル?」
「うん」
舌っ足らずな言葉使いに思わず笑顔全開になってしまったよ!
なんだこの可愛い生き物!(重要だから2回言いました!)
…………あれ?
てか私なんかスルーした気がする。
なんだっけ?
えちぜんりょーま。
越前りょーま。
越前リョーマ。
…………・え、越前リョーマ!?
テニプリかよ!!!
あのあと私は少し意識を飛ばしていたらしい。
はっと我にかいると、リョーマが小首を傾げて私を凝視していた。
………可愛い。
はっきり言おう。
私はリョーマが結構好きだ。
可愛いと思ってしまっても仕方ないというものだ!
だから抱きついたとしても仕方ないんだ!!
私は何を思ったのか、みんなが見守る中でリョーマをぎゅっと抱きしめた。
リョーマは一瞬身体を強張らせたけれど、すぐに私の身体に小さな手をまわして、同じようにぎゅっとしてくれた。
「可愛いw」
「…伊織、何してんの」
「だって、リョマ可愛いんだもん」
「……はぁ」
ため息つくなそこー!
リョーマが可愛いのが悪い!
「あー、どうやら伊織はリョーマ君を気に入ったみたいですね」
「おー!リョーマのやつもなかなかやるな!」
さすが俺の息子!
少し離れたところで両親たちが話している声が聞こえた。
中には父が何やら嘆いているのも聞こえる。
私は少し名残惜しかったけど、そろっとリョーマを抱きしめていた腕を放し、リョーマを解放した。
リョーマもその気配を察したのか、素直に手を放した。
私はリョーマの頭を撫ぜて、透とリョーマに「行こう」と言って、両親の元へと向かった。
隣で透が少しあきれたような顔をしてたけど、気にしない。
これが私なんだから、慣れてよね!ってアイコンタクトしといた。
またあきれた目線を向けられたけれど。
続
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