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第10話
南次郎さんは電話を終えて、苦笑いしながらリビングに入ってきた。
「いやー、倫子怒られちまったよ。すぐにここに来るってさ」
「倫子さんに会うのは初めてだな」
「お子さんも一緒ですか?」
「おう!一緒に連れてくるってよ!」
「お幾つでしたっけ?」
「今年で3歳!伊織ちゃんと透ちゃんの2コ下だな」
「へー、伊織!弟だぞ!」
「(弟って)……」
「お前、弟って、どうなんだそれ?」
「えー、いいじゃないですか!」
「そうそう!透!お前にも弟ができるんだぞ!可愛がってやれよ?」
「うん!」
父親をやれやれといった感じに見やりながら、母親たちは夕飯の準備に取り掛かりだした。
弟ができる、という発言にぽけーっとしてしまった。
思わず、何言ってんだこの親父、と言いそうになってしまったのは仕方ないだろう?
私は、未だにはっちゃけている父を置いて、透と一緒に私の部屋へと向かった。
さっきから感じているこの引っかかりを、どうにか解こうと思ったのだ。
私の部屋は、2階へ続く階段から一番近い扉の向こうにある。
明るい色を基調とした、シンプルながらも可愛らしい部屋だ。
部屋の隅にうず高く積まれているぬいぐるみは、父が惜しげもなく買ってきてくれる贈物である。
軽く30体を超えているあたり、ああ金持ちの家だ、と思うわけだが。
私と透は部屋にあるベッドの上に座って、向かい合う。
「ねぇ、さっき何か引っかかったよね?」
「あー、何だろうね?私も何か、こう、気になったよ」
私の質問に、透も是と答える。
だが未だに答えが見つからない。
お隣さんの名前は南次郎。
………南次郎?
「ねぇ透」
「何?」
「…南次郎ってどっかで聞いたことない?」
「……ある気がする」
「それってさ、向こうの世界で、だよね?」
「………そうだね」
「…」
「…」
私たちは沈黙した。
もしかしたら、本当にもしかしたのかもしれない。
本当にトリップしたのかもしれない。(しかも知ってる作品の中に)
どこだったろう、とうんうん頭をひねっていると、ピンポーンと音が聞こえた。
「誰か来たね」
「きっと、さっき言ってた南次郎さんの家族じゃない?」
「あ、そっか」
「下に行こうか」
呼ばれそうだし、と続けようとして下から父の声が聞こえてきた。
「伊織、透ちゃん!ちょっと降りてきなさーい!」
「はーい!」
「今行きます!」
案の定かけられた声に私たちは顔を見合せて少し笑った。
「伊織のお父さんってわかりやすいよね」
「透のお父さんほどじゃないよ」
「そうでもないよ!」
「そうだっけ?」
「もう!」
早く降りよう!そう言って透は先に降りて行ってしまった。
あーあ、拗ねた、と私は笑いながら透の後を追う。
リビングで透の音のない悲鳴が聞こえた気がした。
続
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