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隣の席が柳生だったなんて聞いてないよ!
言ってないんだから聞いてるわけないじゃん。
言ってよ!
仕様がないでしょ!言う暇がなかったんだから!
第28話
テスト地獄の後には待ちに待ったお昼の時間ですよー!
寿さんのお弁当って初めてだから楽しみでしかたなかったんだよね!
どこで食べるのって話になったとき、みんなお弁当だったからゆっきの「中庭とかいいんじゃない?」の言葉で中庭で輪になってお昼タイムです!
草(というか、芝生?)の上に4人輪になって座った。
私の隣に透とゆっき、前には弦一郎。(私→ゆっき→弦一郎→透)
みんな一斉に鞄からお弁当を取り出したんだけど。
…………。
「弦一郎とゆっきのお弁当大きいね」
「む…そうか?」
「これくらいが普通じゃない?俺たちは男だしね」
「そういうもんなの?」
「精市はともかく、弦一郎はすっごく食べるよ」
「そうなんだ」
じゃあ、リョマが食べなさすぎなのか?
だからあんなに細っこいのね!
うんうんとひとり頷いてスッキリしたところで、さあ食べますか!とお弁当を開いた。
おお!!
「美味しそう!さすが寿さん!!」
「本当に、寿の料理はすごいよね」
色とりどりの具、すごく綺麗にまとまったお弁当の中身に思わず歓声を上げてしまった!
透の中身も私ときっと同じだから綺麗にまとまっていることだろう。(たまに私の嫌いなものが食卓に出るときは私のだけ抜いてくれたりするんだ)(だからたまに具が違う事がある)
つやつやの白米に、みずみずしいミニトマト。
ふっくら焼き上げられたお弁当の定番、卵焼きに焦げ目が綺麗な焼き魚!(素晴らしい!)
嬉々として箸を手に取り「いただきます!」一口目。
ひょい、ぱく……もくもくもく。
「~~~っ美味しい!」
「うん、さすが寿」
いつもながら寿さんの料理は絶品だね!
好き嫌いが激しかった私だが、今では豆類以外はほとんどが食べれるようになったし。(これも笠松と寿さんのおかげだな)
お弁当だから玉子焼きは半熟じゃなくて、ふっくら焼き上げられているけどすっごく美味しい!
箸が止まらないです!
「・・・ん?どうしたの、ゆっき?」
こちらをじっと見たまま動かないゆっき。(な、なんだよー)
お弁当の中身はまだ半分ほどしか減っておらず、食べ終わったわけじゃないみたいだし。
私の声に透も弦一郎もゆっきを見る。
やっぱりさっきと変わらず、お箸を手に持ったままこっちをじっと見て動かない。
ゆっきの視線をたどると・・・・・・。
「玉子焼き?」
え?何?玉子焼きをそんなに見つめてどうしたの?
私の声にゆっきが体をピクッと動かしてやっと反応を示した。
・・・もしかして。
「・・・食べる?」
「いいの?」
「うん。はい」
食べたいのかと思って聞くと、目をキラキラさせて問い返してきたからそのまま箸でつかんでゆっきのお弁当箱にひょいと放り込んであげる。
ゆっきはすかさず箸でつかみ、そのまま口に放り込んだ。
「どう?寿さんの玉子焼き!絶品でしょ!」
「うん、美味しい」
そういって笑ったゆっきは、なんていうか、その。
・・・・・・・・・めちゃくちゃ可愛い!何その微笑み!!
透も弦一郎もぽかんと口を開けて驚いているところを見ると、この笑みは珍しいものなのか!?
ていうか!
「ゆっき可愛い!」
「・・・何?いきなり」
「だって、ゆっきが可愛いんだもん!ね、透!」
「え!?あ・・・・・・うん」
「ほら!透も可愛いって言ってるし!」
「ふーん」
なかなか見ないゆっきの可愛い表情にきゃあきゃあ言ってると、透が少し青ざめて弦一郎も心なしか顔が強張ってる?(いつものことか?)
2人はある一点をじっと見ていて。
「ね、伊織」
「ん?」
隣のゆっきから声がかかってそちらを見ると・・・・・・にゃー!
な、なんで魔王降臨!?
なんでか黒い顔したゆっきがこっちを見て、微笑んでらっしゃる!(こわっ!)
お弁当と箸を膝に乗せて、空いた手で私のあごを持ち上げて、目の前で薄く目を細めたゆっきがこちらをじっと見てる!
「ね、伊織」
「ぅはい!」
「・・・・・・今度俺のこと可愛いなんて言ったら」
「・・・い、言ったら?」
「二度と言えないように、俺が男だってことを、体に刻み付けてあげるよ」
「・・・!」
ぅわあああああああ!!!!
耳!耳元で甘い声を出すな―――――!!!!
背筋になんか走った!走った!!(にゃ――――――!!!)
必死にこくこくと頷くと、クスと笑って手をあごから離してくれた。
すぐさまゆっきから距離をとって離れたけど、うわー!なんかまだ背中ぞわぞわする!!
ゆっきとは反対側の隣に座っている透に抱きついて、ぎゅーってしていると、だんだん背中のぞわぞわがなくなってきた。
うううーって唸っていると、ゆっきのほうからは軽快な笑い声。
そして抱きついている透からは呆れたため息が聞こえた。
だって仕様がないじゃないか!
ゆっきが可愛いのがいけないんだよー!!
私や透にとったらゆっきや弦一郎なんて、子供にしか見えないんだもん!(一回りは年齢に差があるんだから!)
透もため息はついても本当に呆れてはいないのか、私だからと諦めたからかは分からないけど(後者っぽい)背中をなでて落ち着かせてくれた。
深呼吸をして、何とか背中のぞわぞわも取れたので、また楽しいランチタイム。
・・・あれ?そういえば、弦一郎がやけに大人しいな。
ちらと目の前に座る弦一郎を見ると。
・・・・・・あらまぁ。顔が真っ赤。
顔を真っ赤にして、わなわなと震えている弦一郎が見えた。
今は食事中ということもあり、帽子を取っているから表情が丸分かりだ。
眉間にしわを寄せて、目が見開き、顔を耳まで真っ赤にしている。
口がパクパクと餌を求める鯉のように開いては綴じを繰り返していた。
ああ、これ、やばい。
私も透もゆっきも、とっさにお弁当を膝に乗せ、箸をおいて、両手で両耳をふさいだ。
その瞬間。
「破廉恥な―――――――――!!!!」
後に聞いた話だが、弦一郎のその声は、この広い立海代付属の敷地全域に響き渡ったという。
この年で「破廉恥」なんて言葉が出てくるのは後にも先にも弦一郎だけだろう。
どうやったらこんな子に育ってしまうのか、はなはだ疑問である。
弦一郎は叫んだのでスッキリしたのか、はあはあと息が荒いながらも落ち着きを取り戻したみたいだ。
だいたいこれくらいで動揺しすぎなんだよね!(私も動揺したけど!)
何とか透が弦一郎を宥めて、またもや中断されたランチタイム。
あと少し残ったお弁当を平らげる。
最後の一粒まで食べきって、一人先に「ご馳走様でした」と手を合わせた。
「あ、弦一郎。ご飯粒ついてる」
手を合わせたまま透の声で正面の弦一郎を見ると、確かに左頬の口元寄りにご飯粒が一粒ついていた。
弦一郎の子供らしさに少し和んでしまって、ちょっと悔しい。(・・・複雑な気分だ)
「む、ここか?」
「違う違う、左」
「ん、どうだ?」
「もー、違うってば。・・・ほら、取れた」
米粒がなかなか取れない弦一郎に痺れを切らしたのか、透が弦一郎の頬に手を伸ばして米粒を取ってやり、それをそのまま口に含んだ。
・・・・・・・・・口に含んだ!!!
「ちょ!お前!!」
「何だ、伊織?いきなり立ち上がったりして、どうした?」
「お前!!」
「だからなんだというのだ」
「人には破廉恥とか言っておいて!おま、自分はどうした!!」
「・・・なにがだ?」
「今!透に!米粒取ってもらって、食べられてたろう!それは破廉恥とは違うのか!!」
「・・・・・・・・・・・・っ!」
私の指摘に、理解不能だといわんばかりの弦一郎だったが、今の光景を客観的に感じ取ったのか、逡巡した後に目に見えるほどに顔を真っ赤に染めてしまった。
何だこいつ!無意識か!!
大体透も透だ。まるで日常茶飯事だというかのような連係プレーだったぞ!
そう目で透に訴えると「だって、いつもしてるし」という答えが返ってきた。
「こんなこといつもしてたのか!弦一郎の破廉恥!!」
「な!違う!違うんだ、伊織!」
「何が違うのか説明してみろ!」
「そ、それは」
「この破廉恥め!」
「伊織、それくらいにしてやりなよ」
「・・・仕様がない。ゆっきに免じて、今日はこれくらいにしておいてやろう」
「・・・面目ない」
耳まで真っ赤にして俯いている弦一郎が可哀想になったのか、ゆっきが私に声をかけてきた。
その声に、まあいいか。と私も少し天狗になりながら言葉をつむぐ。
なんだか弦一郎に勝ったみたいだ。(これちょっと楽しい!)
そんな私たちのやり取りを一人静かに見ていた透は、苦笑を浮かべているけれど、弦一郎のうなだれた姿を見て、やっぱり面白かったみたいだ。
笑みが隠れ切れてないですよ、透さん。
続
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