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「今日から授業が始まる。お前らも中学生になったんだから、何事にも気を引き締めて行けよー。ちなみに1時間目は俺の担当授業だ。楽しみにしておけ。以上」
第26話
1時間目ってなんの授業だったっけ?
ゆっきは覚えてるかな?
「ねぇ、ゆっき」
「1時間目は国語だよ」
「…おお、流石ゆっき。今日も冴えてますねー」
「ふふ、伊織が分かりやすいんだよ」
何がそんなに面白いのか、ゆっきは上品に口元に手を当ててふふふっと笑っている。
いやね、可愛いよ。可愛いんだけどさ。
笑われているのが自分なのが、なんて言うか納得いかない。
ぶーたれてみる。
ゆっきが笑う。
もっと膨れてみる。
ゆっきの笑いが止まらない。
もう!
「そんなに笑う事ないじゃんか!」
「だって、ふふ。伊織が面白いから」
「…面白くないよ」
「面白いよ」
「うー…ゆっきなんて知らない!透のところに行ってやるもんね!」
「まぁ、落ち着いてよ伊織。もうすぐチャイムも鳴るし、先生も来ちゃうよ」
拗ねて教室を出て行こうと立ち上がったはいいけれど、さっとゆっきに手を掴まれて座りなよと諭されてしまった。
ゆっきって本当に大人だよね。
「伊織は国語得意かい?」
「んー、それなりに。好きではあるよ」
「そうか」
「ゆっきは?苦手?」
「ううん、そうでもないよ」
「ふーん、そうなんだ」
やっぱりそうだよね。
ゆっきとか弦一郎とかって全部得意そう。
苦手教科なし!って感じする。
『伊織が苦手なら教えてあげようと思ったんだけどな』
「何か言った?」
「ううん、何も」
「?」
「ふふ」
ゆっきって不思議だな。
不思議な男の子。
ガラッ
「ほら、席着けー。授業始めるぞ」
担任の鈴木先生が教室の前の扉から入ってきた。
手にはなにやらプリントらしきものを抱えている。
なんだろう?
「えー、今から漢字テストをしてもらう」
え―――――――!!!
クラス中から批判の声が上がった。
いきなりの漢字テスト。
うわー、面倒臭いな。
伊織は声を上げはしなかったけれど、顔を歪ませて嫌そうな顔を見せる。
対して幸村はにこにこ笑顔だ。
漢字得意なのかな?
鈴木先生の「うるせーうるせー、配り終わったやつから始めろー。テスト時間は10分な」の声に、今まで漏らしていた不満の声をピタリと止めて一斉にプリントと格闘しだしたC組の生徒たち。
伊織もすぐにプリントを見て…。
「レベル低っ」
「伊織漢字得意なの?」
ぼそっと呟いたつもりが幸村には聞こえていたみたいで、先ほど自分が幸村に思ったことをそのままそっくり聞かれてしまった。
それに「あはは、まあそこそこ?」と答えてプリントに取り掛かる。
そうだよね。
中学生の漢字テストなんてたかが知れてるよね。
カリカリカリとシャーペンを進めていく。
時々止まっては、少し記憶を巡らせてまた書きだす。
カリカリカリカリ……
ふぅっと息をついて、シャーペンを机に置いた。
「(と、見直し見直し)…うん、いっか」
そのまま残り時間の3分を外を眺めて過ごした。
伊織漢字得意なのか。
自分のプリントはあと5分の1ほどで終わる。
でもそれよりも先に伊織は書き終えてしまったという事は、それなりに漢字が得意なのだろう。
それに、国語が得意とか言ってたっけ。
授業が始まる前に話していた内容に思いを馳せて、またプリントと向き合った。
国語が得意だと言った伊織。
だけど、このテスト内容だと相当得意じゃなければ少し苦戦するだろうと思われる個所も多々ある。
それを難なく終えてしまった。
しかも「レベル低っ」と伊織は言った。
凄いな。
テニスも上手いし、つい先日まではアメリカで暮らしていたのに国語が得意だという。
幸村はなんだかどこか解せなかった。
違和感、というのだろうか。
なんだろう?
……………今俺が悩んでも仕方ないことか。
伊織と、そして透。
2人には何か隠してることがあると思う。
それが何かは真田も知らないのだろう。
でも、いつかは言ってくれる気がする。
いつかなんて分からないけれど。
言ってくれなかったら………………。
「吐かせちゃえばいいんだもんね」
「…!」(ビクッ)
あれ?伊織には聞こえちゃったか。
俺もまだまだだな。
こちらを向いてなんだか泣きそうになっている伊織にふふ、と笑っておいた。
余計に泣きそうな顔になったけれど、まあ大丈夫だろう。(と思う)
「はい、終わりー。一番後ろのやつ回収してここに持って来てー」
言いながら教卓をバンバン叩く鈴木先生。
やる気があるのかないのかよく分からない先生だ。
幸村はそう思いながら、授業へと思考を向けた。
伊織は幸村をしばし見つめたまま「さっきのは幻聴だ」とぶつぶつ呟いていた。
初回授業から波乱の幕開けで会った。
続
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