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伊織、君は本当に興味深いね。
知れば知るほどに、君を知りたくなる。
君に興味惹かれる。
君が手放せなくなる。
第25.5話(幸村視点)
初めて会った時も思ったけれど、君はどうしてそんなにテニスが上手いんだい?
そしてそれを隠そうとするのは何故なの?
俺にはよく分からないな。
「あんまり人には見られたくないんだけどな」
伊織がそういうから、俺はテニススクールでもあんまり人の来ない、奥の奥にあるテニスコートに伊織を連れてきた。
初めて会った時もこの場所で真田と俺と試合をしたね。
あの時もやはり君が言い出したから、こんなさびれた場所で試合をしたの?
伊織は不思議だった。
俺の中では不思議な女の子だった。
テニスは強くなりたいから練習してるんじゃないの?
テニスは試合に出るためにしてるんじゃないの?
だからそんなに強いんでしょう?
日本女子なんて目じゃない強さなのに、伊織の名前は聞いたことがない。
透が言うには、伊織はアメリカに住んでいるらしい。
だから名前を聞かないの?
それもまた違うと思った。
伊織はテニスが上手いのを隠そうとする。
最低限の人にしか、テニスが上手いのを教えてくれない。
どうして?
俺は知りたくて、伊織を知りたくて質問してみることにする。
「伊織っていつからテニスしてるの?」
「んっ、えっとね、小学校1年生、から!」
「ふーん、じゃあ俺と同じくらいだね(アメリカのスクールだろうか)」
「そー、なんだっ?」
「うん、俺も小1からだよ(じゃあ、試合には出たことあるのかな)」
「そっか、っと!」
いろいろまだ聞きたいこともあるけれど。
「ウォーミングアップはこれくらいにして、試合しないか?」
「っん!いいよ!」
伊織との試合は楽しいから。
ネット際に近づいて、汗を服の裾で拭いながらこちらに寄ってきた伊織を眺めた。
伊織は可愛い女の子だ。
ちょっと勝ち気で、でも素直で。
感情をよく表に出してくると思う。
大事なものは大事といえる子。
でも、それ以外は……(特に関心を示さない、のか)
透とは正反対とは言わないけれど、反対に位置すると思われる子だ。
なのに2人は凄く仲がいい。
小学校6年間、ほとんど会っていないにもかかわらず、だ。
伊織は不思議だけど、透も不思議だ。
「フィッチ?」
「……スムース」
「…残念、ラフだね。じゃあ、サーブ権をもらおうかな」
「コートはこっちでいいや」
「「じゃあ、はじめようか」」
コートの端、ラインを越えて。
すっと立って伊織を見つめる。
トクントクン、心臓の音が聞こえてくる。
ゆっくりとボールを上に放り投げて、放物線を描いて落下してくるそれに向けて、ラケットを振り下ろした。
バシッ
俺のサーブに手が出せなかったのか、ころころと伊織の足元を転がるボール。
「どうしたの、伊織?(君の実力はこんなもんじゃないでしょ?)」
俺は笑って、伊織も笑った。
俺のサーブに、ストロークに必死に噛り付いてくる伊織。
俺はそれをどこか遠くに見詰めて、また思案する。
伊織は不思議だ。
何処か不思議だ。
なにがとか、どこがとか分からないけれど。
ねぇ、何で隠すの?
強くなりたいんじゃないの?
ストロークの応酬が続く。
俺も伊織もどちらも譲らない。
何度も何度も返し返され。
続くストローク、でも伊織はまた返してくる。
笑ってる。
楽しそう。
でももうすぐ終わるね。
また俺の勝ちかな。
「っ」
伊織の空気が変わった。
やっぱり君は面白い。
とても興味深いよ。
伊織のサーブ。
高々と放り投げられたボールが放物線を描き伊織の元へと落ちてくる。
バシッ
「!?」
「…」
「…今のは(あれは…)」
「……ツイストサーブ」
俺の顔面目掛けて飛んできたサーブ。
あれは、ツイストサーブ。
中学生になりたての子供が出来るようなサーブじゃない…はずだ。
「まだそんなものを隠し持っていたのか(否、それだけじゃないな)」
その小さな身体に、まだ秘密を隠し持っている。
あとどれくらい俺を驚かせてくれる?
あとどれくらい俺を楽しませてくれる?
あとどれくらい俺を惹きつけてくれる?
他人に興味を持てない俺を、惹きつけてやまない君は、俺の唯一になれるだろうか。
俺の唯一になってくれるのだろうか。
「ゲームセット。俺の勝ち、だね」
「っ……はぁ。やっぱゆっきには勝てないね」
「でもこの間よりはとられたよ。流石伊織だね」
「…あんまり嬉しくないけどね」
そんな顔して言われても説得力なんて皆無だよ。
満面の笑顔。
ツイストサーブ出しちゃったし、攻略されちゃったし、4-6だけど負けちゃったし。
あーあ、ゆっきは強い強い。
そんなことを言ってても、ぶーたれて不貞腐れて見せても、分かるよ?
目が笑ってるから。
楽しかったって言っているから。
ふふって思わず笑いが漏れた。
伊織の笑顔がうつっちゃったよ。
ねぇ、伊織。
ちょっと分かった気がするんだ。
君が上手いのを隠す理由。(多分面倒臭いって言うのもあるんだろうけれど)
テニスが上手いのを隠してるんじゃなくて、ただ単に試合がしたくないだけなんじゃない?
これは疑問系だけれど、俺は確信が持てると思う。
だって、君は本当に楽しそうにテニスをするから。
ね、伊織。
またテニスしようね。
空は快晴、テニス日和。
少し伊織に近づけた休日。
こんな日も悪くない。
続
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