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第14話 reincarnation

―――――クリスマスイブ
それは、私たちにもサンタが訪れる日。
去年まではそう嬉しいものでもなかった。
でも、今年は違うの。

年に1度しかない、大切な日。
私たちが出会って初めての、越前リョーマの誕生日。

 

 

第14話

 

 

「ねぇねぇ!今日ってすっごく大事な日でしょう?」


伊織は台所にいる母に向かって走って行って、質問を繰り返した。


「ねぇ!大事な大事な、大切な日なんだよね?」
「クリスマスイブのことでしょう?」
「違う!違うの!」
「あら、じゃあ何?」
「リョマの誕生日!でしょう?」
「!…伊織、知っていたの?」
「南次郎おじちゃんに聞いたの!」
「あら、南次郎さんに?」
「うん!でね、お母さんにお願いがあるの」
「なぁに?」
「あ、あのね…一緒にお買い物に行きたいなーって」
「…リョーマ君の誕生日プレゼントを買いに行くのかしら?」
「そう!私と透で昨日話したの。私と透のお小遣いを合わせてリョマにプレゼント買おうって」
「そう」
「うん、でね!2人だけじゃお買い物は行けないから、お母さんに一緒に行ってほしいの」


話し方が幼くて、なんだか少し恥ずかしくなってしまう。
いつもお買い物には連れて行ってもらえない。
でも今日は連れて行ってもらわねばならなかった。
リョーマへのプレゼントを買わなければいけないのだから。


「ねぇ!お願いお母さん!いいでしょう?」


娘の縋るようなお願いに、さすがの母も断れなかったのか、苦笑いを浮かべて了承してくれた。


「いいわ。リョーマ君の誕生日ですものね」
「お母さん、ありがとう!大好きよ!」


私は喜んで母に抱きついた。
そしてすぐに離れると、透も誘うために隣の家へ走った。
慌ただしくキッチンを出ていく伊織を見た裕子は優しく微笑んだ。


「透!」
「伊織、どうだった!?」
「OKだって!一緒に行こ!」
「やった!」


私と透は手を取り合ってはしゃいだ。
なんてったって、こっちの世界に来て幼稚園に行く以外での外出なんて本当に久しぶりだったんだ。
過去、記憶にある限りでは去年の私たちの誕生日だ。
1年に1回あるかないかの外出。
それも嬉しいが、リョーマのプレゼントを自分で選んで買えるというのが嬉しかった。


「何にしようか?」
「とりあえず行ってから決めよう?早く伊織の家に行こうよ!」
「それもそうだね」


私と透は急いで私の家へと向かった。





「デパートでいいのかしら?」
「「うん!」」


私と透は(伊織の家の執事の)笠松の運転する車の後部座席の窓から見える街を、きゃっきゃしながら見ていた。
母はそんな2人を微笑ましく見て、笠松に行き先を告げた。


「笠松、大手デパートまで行ってくれるかしら?」
「郊外にあるサントリアルデパートでよろしいですか?」
「ええ、お願い」
「畏まりました」




デパートへと車がついて、私たちと母と笠松は連なって店へと入って行った。


「どういったのがいいかなー?」
「うーん……これとかどう?」
「キーホルダーかー…リョーマってキーホルダー使うかな?」
「あー……使わなさそう」
「うー……リョーマが欲しいものって何だろう?」
「……テニス関連とか?」
「あー…」


リョーマが欲しいものってテニスしか思いつかない。
テニス以外で欲しいもの?
欲しいものって何だ?


「やっぱテニス関連かな?」
「だね」
「お母さん、スポーツショップってここにある?」
「そうねー、ああ、2階にあるわ」
「じゃあ、行こう!」


私と透ははしゃいでエレベーターへと走った。
母と笠松もそんな私たちを見て、笑いながらあとを追いかけてくる。
2階の東側。
階の半分をスポーツショップが占めていた。
とても大きなスポーツショップだ。

この世界はなんだか私たちのいた世界よりもテニスが盛んみたいだ。
野球やサッカーよりもテニスが有名。
それくらいの世界だから、この大きなスポーツショップも約半分がテニスで埋まっている。


「テニス道具、一杯あるね」
「なんか思ってたよりも沢山あるね」
「だね」
「お母さん、笠松!何か一杯ありすぎてよくわかんない!」
「あらあら、仕様がないわね」
「あちらに良さそうな商品がありますよ」
「本当!?」
「行こう伊織!」
「うん!ありがとう笠松!」
「こけないようにね」
「「はーい!」」


笠松が言っていたのは小さい子供向けの商品が置かれている棚だった。
そこには軽く小さめのラケットや、柔らかいテニスボールなど沢山の商品が置いてある。
南次郎さんはよくリョーマと一緒に庭でキャッチボールのようなことをしているが、本格的にはまだテニスを教えている気配はない。
リョーマのトレードマークの帽子も、ラケットもまだ持っていない。
―――…なら。


「ねぇ、透」
「何にするか決まった?」
「ラケットとかどうかな?」
「…いいかも」
「ね!」
「それなら喜んでくれそうだね」
「じゃあ、どれにする?」
「うーん……暖色系かなー?」
「だよねー………赤と黒とかどう?」
「じゃあ、あれだね!」

透は伊織の選んだ色を元に、上の方にある1つを指さした。
そこにあるのはラケットの先端から赤から黒へと色が変わっている子供用のラケットだ。
ガットは白。


「あ、いい!あれにしよう!」
「うん!あれにしよう!」
「笠松!笠松あれが欲しいの」
「取ってもらっていい?」
「畏まりました。こちらですか?」
「うん!」
「あら、決まったの?お会計に行きましょうか」


透が私たちのお小遣いを手に持って、ラケットも一緒にレジへと持っていく。
その透の後ろからついていく私の視界にあるものが映った。


私はそれを手にとって、レジへと走った。




ピンポーン

リョーマの家のベルを鳴らした。
今日はクリスマスイブ。
リョーマの家で3家族でパーティーをしようという話になっていたんだ。


「あら、伊織ちゃん。いらっしゃい」
「お邪魔します」
「裕子さんも雅人さんもいらっしゃい」
「お邪魔するわね」
「今晩は」
「ええ、あがって頂戴」
「透はもう来てるの?」
「ええ、透ちゃんのご家族も一緒に来ているわよ」
「どこにいるの?」
「リビングにいるわ。リョーマと一緒に遊んでいるわ」
「ありがとう!」


伊織はパタパタと足音を立てて、リビングへと走っていく。
手には小さな紙袋を持って。


「リョマ!透!」
「さっきぶり、伊織」
「伊織!」
「おわっ」


リョーマは私を見たとたんに走ってきて腰に抱きついてきた。
ぎゅーって腕を腰にまわして抱きついている。
私はそんなリョーマの頭を撫ぜて落ち着かせた。


「どうしたの?リョマ」
「イオリなかなかこないから、こないと、おも、た」
「そっか、でもちゃんと来たよ!」
「うん」
「ね、透!今渡しちゃわない?」
「そうだね、渡しちゃおうか!」
「ではでは!」
「「リョーマ!誕生日おめでとう!!」」
「え!」


リョーマは私から離れて、目を見開かせて驚いた。
私と透が手に持っているラケットの入ったバッグ。
中身が何かわかったのだろう。
だんだんリョーマの顔が笑顔に変わっていった。


「あ、ありがとう!イオリ!トオル!」
「「これからもよろしくね、リョーマ!」」














おまけ



リョーマは自分の部屋へ誕生日プレゼントを持っていった。
そのあとを追って、私はリョーマの部屋へと行く。
今日買ったものはラケットだけじゃない。
誕生日プレゼントにラケットを買ったけど、実はクリスマスプレゼントも個人的に買っておいたのだ。

コンコン

リョーマの部屋の扉をノックして、開けた。


「ね、リョマ。ちょっといいかな?」
「イオリ、なに?」
「あのね、これ」


私は手に持っていた小さな紙袋をリョーマの前に差し出した。
リョーマはわかっていないのか、首をかしげてこちらを見ている。


「プレゼント、さっきもらったよ?」
「さっきのは誕生日プレゼントでしょ?これは、クリスマスプレゼント!」


リョーマはいまだよく分かっていない顔で紙袋を受け取った。
開けていいの?と視線が言っていた。
もちろん、と私は視線で促して、リョーマが袋を開けるのを見ていた。


「これ」
「テニスする時に必要かなって思って」
「……ほんとうにもらっていーの?」
「貰ってくれると嬉しい」
「…ありがとう。ありがとうイオリ!」


また私の腰に抱きついて、リョーマは本当に嬉しそうに笑ってくれた。







リョーマの手には1つの帽子。
テニスをする時に使うつばのついた黒い帽子。

これは後にリョーマのトレードマークのあの帽子となるのだが、それはまた未来の話。




 

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