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第33話 reincarnation

「っ終わったー!!」
「やったねー!!」


目の前に広がった、数時間前では想像もできないほどの綺麗な部室に、思わず歓声を上げたのだった。





第33話






大体、あそこまで汚い部屋を放置してたっていう事にまず疑問がよぎるんだよね!
そう思えるくらいにこの部屋は汚かったから、綺麗にするという行為が、ここまで楽しく気持ちのいいものだなんて思ってもみなかった。
途中、ゴがつく虫の死がいとかあって、体と思考が固まったのは言うまでもないが。
わんさかいなくて良かったよ本当に。(ゴがつく虫の死がいは透が排除してくれました。もちろん箒で!)

要らないものは片っぱしから捨てて、要るものは用途別、使用頻度別に段ボールに詰めて奥にしまった。
何十年前の部誌なんて、普段読むことなんて皆無なんだから、本棚に綺麗に保管する必要ないもんね。(段ボールで十分です!)
壊れた物品や、もう使わないであろう棚などは学校側に頼んで廃棄処分にさせて貰った。
もちろん部長に確認を取ってからだけど。


「それにしても、疲れたね」
「うん。働いたーって感じだよ」


私達はお互いに顔を見合せて、意見を言い合った。
でも、その顔は疲労感を漂わせつつも、達成感に満ち溢れていて、なんだか可笑しくなって笑いがこぼれる。
とりあえず、掃除が終了したことを部長たちに言いに行こうかとドアに手をかけると、勝手にドアが開いた。

あれ?自動ドアー…なんて。


「ここっていつから自動ドアになったんだっけ?」
「いや、自動ドアになんてなってないから。落ち着け伊織」
「あ、部長」


もちろん自動ドアになってないことなんて気づいてますよ!
そんなこと本気にしてたら私痛い子じゃないですか!!
そう思いながら目の前に立っている、タオルを手にいっぱいに抱えた部長を仰ぎ見た。
あ、後ろに副部長もいるや。


「どうしたんですか?そんなに沢山タオルを抱えて」
「そろそろ掃除も一段落つくかと思って、様子見ついでにタオルを置かせて貰おうかと思ってね」
「そうだったんですか。どうぞ」


そう言いながら私はドアの前から体をどけて、先輩たちを中へと促した。
と、先輩達は中へ顔を向けた瞬間から、目を見開いて動かなくなってしまった。

まぁ、何が言いたいかは十分すぎるほどに分かりますよ。
今まで私に遮られて見えなかった部室の全貌を目の当たりにして声が出ないってところですかね?


「ここは本当にマネの部室かい?」
「ここまで綺麗になるなんて……驚きだな」
「でしょ!?頑張りましたもん、私たち!」
「本当に大変でした」
「でも、よくあれだけの量を2人で綺麗に出来たね」
「あはは。最初はずるしちゃいましたからね」
「ずる?」
「はい、1年生の人たちにも手伝ってもらったんです。流石に私たちじゃ部誌の詰まった本棚なんて運べないし」
「重いものとか、外に出すのを手伝ってもらったんです」
「へぇ」


話しながら、タオルを長机の上に置いてもらう。
もちろん机の上も綺麗に拭き掃除した後なのでタオルを置いても汚れることはない。
タオル用のクリアボックスが欲しいな。

部長達は綺麗になった部室が気になるのか、うろちょろ見て回っている。
私と透は掃除も終わって手持無沙汰になりながら、次はどうしようかと考えた。


「あ、そういえば。掃除道具って、ゴルフ部に返しに行かなきゃじゃなかったっけ?」
「そうだそうだ。返さなきゃだった」
「じゃあ、私が返しに行くよ。ゴルフ部なら知り合いもいるし」
「透1人で大丈夫?私も行こうか?」
「ううん。箒と塵取りだけだし、大丈夫だよ。行ってきます!」
「はーい、いってらっしゃい」


笑顔で透を送り出して、はたと考える。
ゴルフ部の知り合いって………柳生か!(盲点だった!)
私も行くって言えばよかった!ちくしょう!
あーそっかー、そうだよねー。柳生だよね。いいなー透。

私がぶつくさ心の中で考えていると、部長と副部長がこっちを見ていた。
…なんざんしょ?
首をかしげて見せるけど、向こうはまだ黙ったままだ。


「部長?何かありましたか?」
「…いや、何でもないよ」
「(…気になる!)そうですか」
「…」
「…」


何!?気になる!
っていうか、無言で見つめないで!
なんだか恐くなって副部長に視線を合わせると、苦笑してた。
何?なんだってんだちくしょー!


「湯沢、伊織君が困っているよ?」
「…ああ、すまない」
「(副部長ナイス!)いえ、あの何か?」
「…伊織と透はテニス経験があるんだよね?」
「はい。ありますね」
「どれくらいか聞いても?」
「はい。小学校に入る直前くらいだから、6年間くらいですかね」


思ってたよりも長いなー。
6年も続くなんて思ってもみなかったかも。
なんて思っていると、部長の顔が真剣になった。


「どうして、マネージャーになろうと思った?」


ああ、そうか。
これもある意味で入部試験のようなものなのかな?
意思をはかる、ってこと?

私はちょっと考えて、それから、正直に答えた。


「マネージャーになるきっかけは、友達に誘われたから、です」
「じゃあ、質問を変えるけど。なんでマネージャーだった?」
「(この質問は、何でプレイヤーにならないかってことだよね?)…私は、勝敗に執着がないんです。勝っても負けてもどっちでもいい。楽しい試合が出来ればそれでいい」
「…」
「私はそれでいいかもしれないけど、部活となるとそうはいかないでしょう?だから最初は文化部でもいいかなと思ったんです。でも」
「透に誘われたから?」
「それもあります。でも、やっぱりテニスが好きだから。関わっていたいって言うのもあります」







じゃなきゃ、あんな部室の掃除なんてしませんよ。
苦笑して見せたその顔は、どこか楽しそうで。

これで、決まりだな。
俺は後ろにいた翔(副部長)に視線を送り、彼が頷いたのを見ると伊織に向きなおった。


「秋原伊織。君は今正式に、我が男子テニス部のマネージャーとなった。これからよろしくな」
「は?…え?え?」
「本来なら1週間様子見をするところなんだが、伊織なら大丈夫だろう。あと、透もね」
「え?え?」


未だに何が起きたのかさっぱりという感じの伊織に、口元が緩む。

我が男子テニス部のマネージャーになるにはある条件を潜り抜けなければならない。
テニス経験があるのはもちろん、フェンスの周りにいた女の子たちに物おじしないことだったり、マネージャーとしての素質だったり。
本来はマネージャーの素質を見るのに1週間取ってあるけれど、俺と翔の独断で、伊織は今正式なマネージャーにした。
試すようなことはあまりしたくなかったし、騙すような真似もしたくはなかったが、これがここの伝統で、掟だ。
まだ軽く混乱している伊織に掻い摘んで説明すると、納得してくれた。
だが、あまりにもすんなり納得するものだから、なぜか聞いてみると。


「入部があまりにもあっさりしてたから、少し肩すかしをくらってたんですよ」


という答えが返ってきた。
ふふふ、本当に面白いよね。君たちは。
どうしようもなく緩む口元に、翔が(伊織や透に対して)心配そうな顔をする。
そんなに心配するなよ。
伊織と透は気に入ってるんだから、酷いことなんてしないさ。

透も大丈夫だろうけれど、一応形という事でさっきのような質問をするから、秘密にしておいてねと伊織と約束をした。
指切りをしたら、何だか恥ずかしそうにしていた伊織に笑みがこぼれる。

透が帰ってこないうちに伊織には部室を出て貰って、透にする質問の準備をした。
まぁ、さっきと同じような内容なのだけれど。


「今後が楽しみですね」
「ああ、楽しみだ」


彼女たちの今後も、テニス部の今後も。
さて、もう一人のお姫様が帰ってくるまで部室で時間を潰しましょうか。






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