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あんまり人には見られたくないんだけどな。
その言葉の意をくんでくれたのか、幸村は比較的人の来ない外れた場所にあるテニスコートへと連れて行ってくれた。
これが後に、新しい出会いを演出するのだが、それはまだずっと先の話だ。
第25話
「伊織っていつからテニスしてるの?」
「んっ、えっとね、小学校1年生、から!」
「ふーん、じゃあ俺と同じくらいだね」
「そー、なんだっ?」
「うん、俺も小1からだよ」
「そっか、っと!」
「ウォーミングアップはこれくらいにして、試合しないか?」
「っん!いいよ!」
軽いストロークから鋭いストロークに移るまでそんなに時間はかからなかった。
伊織と幸村は互いにボールを打ち合いながら上記の会話をしていたのだが、伊織はともかく幸村の会話に乱れが全く見えないのは彼がそう見せているのか、それとも乱れる程でもないのか。
どっちにしろ恐ろしいことだ。
伊織は軽く掻いた汗を服の裾で拭い、幸村と同様にネット際へと近寄った。
「フィッチ?」
「……スムース」
「…残念、ラフだね。じゃあ、サーブ権をもらおうかな」
「コートはこっちでいいや」
「「じゃあ、はじめようか」」
ドクンドクンと心臓の音が耳に響く。
動悸が激しい、鼓動がうるさい。
風の音が、木々のざわめきが嫌に耳につく。
ゆっくりと綺麗な流れで幸村がトスを上げた。
放物線を描きながら、重力に従って落ちてくるボール。
バシッ
ころころと私の後ろを転がるボール。
目で追い付けなかった。
「どうしたの、伊織?」
こんなもんじゃないでしょ?
幸村は笑って、私も笑った。
また幸村がトスを上げてサーブを打ってくる。
私は次は見なかった。
目で追えないなら追わなきゃいい。
感覚で返す!
パシッ
バシッ
パコン
パシッ
何回も続くストローク。
その中でもやはり勝負は始まっていて。
ゆっきも手際がいい。
左右に振られて体力が削られていく。
でもこちらだって伊達にテニスをやってない。
ストロークの応酬。
私もゆっきも、どちらも譲らない。
打って返して打って返して。
続くストロークにもようやく終わりが見えてきた。
伊織は荒い息を吐いて、構えた。
今は自分がサーブ権を持つ。
あれを打とう。
今まで見せなかったけど、今ならいいかも。
誰もいないここでなら。
透にもまだ見せていないけれど。
すぅっと息を吸い込んで。
ふっと吐き出して。
ひゅっとボールを空へと放った。
高く高く空へと上がり、そして私の元へと落ちてくる。
私はボールの位置を確認して、そして打った。
バシッ
「!?」
「…」
「…今のは」
「……ツイストサーブ」
「まだそんなものを隠し持っていたのか」
ゆっきの表情は、まだ他にも隠し持っていそうだね、って言ってるけど、私は内緒って軽くウィンクかましておいた。
それでも最初の一回は驚いたからかポイントは取れたけれど、そのあと何回かサーブするうちに攻略されてしまった。
流石ゆっき。
末恐ろしい子だよ。
「ゲームセット。俺の勝ち、だね」
「っ……はぁ。やっぱゆっきには勝てないね」
「でもこの間よりはとられたよ。流石伊織だね」
「…あんまり嬉しくないけどね」
ツイストサーブ出しちゃったし、攻略されちゃったし、4-6だけど負けちゃったし。
あーあ、ゆっきは強い強い。
伊織はベンチに座って汗を拭いていた。
持参したスポーツ飲料を口にくわえて、幸村にぶーたれている。
幸村も伊織の座るベンチに腰掛け、伊織の言葉にふふっと笑う。
こんな日も、ま、楽しいからいいか。
空は快晴、テニス日和。
順風満帆の休日でした。
続
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